タツヤは猫好きだった。一方、Kは幼少の頃は猫が好きだったが、中学校に入る頃、同居していた祖母が亡くなって以来猫が嫌いになり、その後犬が好きになったらしい。二人は家の中でも電車の中でも、はたまた映画館でポップコーンを調達している時でも、二人が考える犬と猫の好きな部分について意見を出し合った。しかしながら、二人が住んでいる木造モルタル2階建てのアパートではペットが飼えなかった。

二人の部屋はアパートの前面道路から二つのブロック段を上がってすぐの101号室。間取りは4畳半のキッチンと6畳間が二つ縦に繋がっている。奥の6畳間のサッシを開けると目の前に1畳半ほどの庭がある。その庭はひさしの下に洗濯物を干すとそれだけでいっぱいになるほどのスペースしかなかったが、Kが好きなパンジーの鉢植えがきちんと並んでいた。

この6畳間はサッシのカーテンを閉めると昼間でも真っ暗になった。中央に三つ折りのベッドマットが置かれ、壁には100号ほどの赤い花をモチーフにした抽象画が飾ってある。このマットはシングルサイズであったため、寝相の悪いタツヤはしょっちゅう床にこぼれ落ちた。夏はひんやりした床の感触を感じながら、そのまま眠ることもあったが、寒い日は夜中に度々目を覚まし、冷えた体を体温で温めるようにKを後ろから抱きしめて寝た。

真ん中に位置する6畳間には、磯野家にあるようなちゃぶ台、テレビ、オーディオコンポ、そして壁一面を覆うように大きな本棚があった。この本棚の過半は、レコード、カセットテープ、CDで埋め尽くされている。これは、Kが当時人気のあったミュージシャンが卒業したという音楽系専門学校のヴォーカル講師を務めていたからである。

ちゃぶ台は冬になると炬燵に変わっていた。が、なぜか敷布団はなく、絨毯の上にそのまま置かれていた。タツヤがこの炬燵でうたた寝をしていると、この部屋にあったアンティークな掛け時計のボーン、ボーンという音で必ず目が覚めた。

ボーン、ボーン、
カチ、カチ、カチ・・・・・・

ドン、ドン、ドン、ドン・・・「夜分すみません。○○さん、いらっしゃいますか?」

「うるっせーな! 誰だよ。こんな時間に・・・」




(フリー画像)


ということで、本日はタツヤが平成の初めに半年間だけ暮していたアパートの間取りについてご説明いたしました。

それでは、皆様、素敵な週末をお迎えください。ボーン! (^^)/~~~






錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)



  • 作者: 宮本 輝

  • 出版社/メーカー: 新潮社

  • 発売日: 1985/05/28

  • メディア: 文庫







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