即位礼の前日、私は会社からA4用紙20枚ほどに纏められたレポートを二つ折りにしてカバンに押し込み自宅に持ち帰った。そのレポートは先月企画部に異動になったばかりの元部下から、ざっとでいいので目を通してほしいと頼まれたものだった。私は翌日の祝日を使って、レポートの疑問箇所に自分なりのコメントを書き入れるつもりでいたが、こういった予定は試験前に参考書を買った時と同じで、持って帰っただけで宿題が終わったような気分になる。案の定、その日の夕方までレポートを手にすることはなかった。

この前の土曜日、急きょ飲み友達からランチに誘われ、毎週恒例の散歩を中止した。それもあって、週に一度の孤独を楽しむために、その日新宿に向かった。もちろんカバンの中にはレポートが入っている。

外に出ると細かい雨が降っていた。折り返し地点の歌舞伎町一番街あたりで小雨は上がり、濡れた折り畳み傘をそれと同じ柄のカバーに包み、カバンの中に入れた。傘カバーに納まった折り畳み傘は妙に可愛く見える。靖国通り手前で、にわかに聞こえてきた歌声の先を見上げると、その日のYUNIKA VISIONはエレファントカシマシだった。宮本君の癖である髪をかき上げるシーンもしっかり捉えることが出来た。




















彼の曲を聴いているうちに、徐々に宿題をやろうという気が湧いてきた。大ガードを通り過ぎ、入り口に散らばったビニールの傘袋が足に纏わりつかないように小さくスキップして喫茶店に入った。Mサイズのホットコーヒーを注文し、席に着く。カバンを膝にのせ、中に手を入れた。レポートに指先が触れた。いやな予感がする。指先でつつくと蒸しパンのような感触。濡れた傘カバーが見事にレポートと密着していたようだ。

用紙の二角(すみ)がくるくるっと小さく丸まり、丁寧に一枚ずつほぐさないと上手くめくれない。辛うじて最初の5ページほどをばらし、水分でゆがんだ文字を目で追ってみた。コメントを書き入れようとしたが、シャープペンのペン先が紙をえぐる。赤のサインペンに変えたが、濁点がつながってしまう。ボールペンにしてなんとか書けるようにはなったが、気分は落ち込んだまま。泣きたくなった。頭の中で「さあ!頑張ろうぜ!」と宮本君がシャウトしていた。

皆様、傘カバーは防水性の高いものにしましょう。おしまい (^^)/~~~


世界にたった一つ、あなただけのドメインを登録しよう!

月額900円(税抜)から、高速・多機能・高安定レンタルサーバー『エックスサーバー』



エルセーヌ「小顔」体験キャンペーン