(職場近くの皐月の空)





それは社会人になって初めて経験する長い連休の最終日のこと。私は散歩中に尿意を催した。


これが、私が生まれ育った田舎のような場所であればそれほど気にすることではなかったが、新宿都心ではそうはいかない。加えて、近くにコンビニもパチンコ店もゲームセンターもない場所だった。

徐々に尿意が強くなり、私はあたかも刑事の追走を逃げ切ろうとする犯人のように、人気のない場所を探しながら速足になる。

そろそろ危ういっと思った時に、ちょうど10年ほど前に仕事の関係で訪れたことのあるビルの前に差し掛かった。

人間の記憶というものは本当に面白いもので、この危機的な状況になって初めてそのビルの一階入り口から対角線上の奥にあるトイレが浮かんだのだ。

連休中とはいえ、このビルの一階には年中無休のファミリーレストランが入っている。

―― よし、これなら行ける!

私は事前に自らの動作を少しでも短縮させようと、ズボンのジッパーを降ろし、かつトランクスのボタンを外しながら疾走する。

間に合った。10年前と寸分違わずそこにトイレがあった。


☆  ☆  ☆


この時、同時に(私の創作ではないかと疑われそうな)ある出来事が起きていた。

それは、私が全身の力が抜けてしまうほどに安堵しながら小水をしていると、後ろから

「また、一つ見つけたよ」

と、そのトイレ内の三つある便座のドアが一つだけ閉まっていた。おそらく、中の住人は私がここに居ることに気付いていなかったのだろう。

彼が呟いた『見つけたもの』とは、果たしてこのトイレのことだったのだろうか?! 残念ながら、それを確かめる術はない。

いずれにしても、見つかって良かった、ユー 安堵 ミー、でした。

ホッ ε=(o; おわり 

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