昨夜の渋谷歩道橋から





「……については、これまでも度々説明しているところであり、引き続き、適切に説明していくことが重要であると考えています」


私は昨日から黒縁の眼鏡をかけ始めた社員と肩を並べて、国会中継が流れるラジオに向き合っていた。


「相変わらず、野党さんはくだらない質問ばかりだな。ちょっと時間ある?」と私は会議室を指さしてその社員に言った。


「辞めて、どうするの?」


「実は主人にも未だ話していないんですけど、ネイルサロンをやろうと思っています」


「自分で開業するってこと?」


「はい」


「ようやく仕事にも慣れてきて、頼りになる人材になってきたと喜んでいただけに、残念だね」


「申し訳ありません。コマツさんにはいろんなことを教えて頂いたし、私のおっちょこちょいなところを何度も助けていただき、本当に感謝しています」


「そんなことはいいけど、旦那さんにはちゃんと話しておいた方がいいよ」


私の顔を見ながら、一文字に結んだ口元から彼女の意志の固さがわかったような気がした。


☆   ☆   ☆


私が60を手前にしてこの会社に入社してから、早や2年半が過ぎた。
人間生きていると思わぬ事態が待っているもので、入社以来マイペースで業務を続けていた私に突然、暴風雨が直撃した。いくら想像力過多とまでいわれている私でも、その原因たるやまさに想像を絶するものでした。

それはある部署で不正が発覚したのです。極めて悪質で、甚大な損害という点においても驚くべきものでしたが、それだけにとどまらず、なんと私がその後任の責任者になってしまったのです。

私が抜擢された経緯は省略しますが、その不正を働いていた前任の役員は退職後、自殺を図っていました。そして
6月に着任した私は、慣れない仕事と損害を受けた顧客との間で、悪戦苦闘の日々を送ってきました。

それでもようやく今月というようりも、今週から徐々に平穏な日々が戻ってきています。(損害を受けた顧客との交渉は未だ続いているので100%平穏というわけには参りませんが……)


この5ヶ月弱を振り返ってみると、暴風雨の中でもなんとか頑張ってこれたのは、いつでも前向きで、明るい性格の社員のお陰もあったのかなっ、としみじみそう思っています。


「ネイルサロン、頑張ってね!」 


暴風雨 去っても淋し 秋深む  (^^)/~~~



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