前回に続き『友人Aの妹』をお送りします。これまでの内容は次の二話をご覧ください。

(一)ババ抜き
 
(二)ジョーカー

4人で始めたババ抜きは、妹の負けに終わる。妹は最後に残ったジョーカーを握り締めながら大粒の涙を流し、声を殺して泣いていた。

(三)クリスマスプレゼント
達也はその場の気まずい雰囲気を察して、「次、七並べやらない?!」とわざと明るく言うと、Aが「ごめん、こいつがいると面白くなくなるから帰るわ」と立ち上がろうとした。丁度その時、達也の母親がアイスクリームをお盆に載せて部屋に入ってきた。母親は妹のただならぬ様子に気付き、俯いたままの妹の顔を覗き込もうとすると、Aがそれを制するように「おばさん、大丈夫です」と言って、自分の手を妹の頭の上に軽く置いた。母親は仕方ないなといった表情で肩をすくめ、アイスクリームをお盆ごとテーブルに置くと、何か言いたそうな視線を達也に送りながら部屋を出て行った。

ドアが閉まって、Bが美味そう!と言いながら一つのアイスを手にする。しかしAは取ろうとしない。すると達也はカップの上にスプーンを乗せ、Aにバニラを渡し、妹には「これでいい?」と聞きながらイチゴ味のアイスを妹の目の前に置いた。妹はなおもヒッヒッと息を吸い込むように泣きながらアイスを手にする。4人が食べ始めると暫く沈黙が続いた。達也がまた気を利かせて、次の言葉を探そうとするが適当な言葉が見つからない。そして、達也のアイスがカップの丸い淵から順に溶けだし、中の塊がカップの中をクルクル回り始めた頃・・・

その沈黙を破るように突然、妹がクスクス笑い始めた。と、同時に他の三人がスプーンを持ったまま顔を見合わせる。その内、妹がゴホッ、ゴホッと喉を詰まらせ、大粒の涙でテカった妹の顔が見る見るうちに
真っ赤に染まった。三人は一斉に声を出して笑った。





(フリー画像から拝借、某図書館前)


やがて季節が移り、達也の中学生活も最後の三学期だけを残すこととなった、その年のクリスマスイブの日、達也とAは図書館にいた。二人は部活がなくなって以来、同じ高校を目指し、ほぼ毎日ここで受験勉強を続けている。午後5時10分前に閉館のチャイムが鳴った。

「達也、ちょっと待ってて、家に電話してくるから」とAは達也にバッグを預け、図書館1階の公衆電話に向かう。暫くして達也が2階から二つのバッグを両肩に載せ階段を下りてくると、A

「お母さんが、テレビゲーム(※)やってもいいって!」

2人が図書館を出ると外はすでに暗くなり、公園の樹が風に黒く揺れていた。

「こんばんは。お邪魔します」

「あっ、達也君、いらっしゃい」「〇〇(Aの名前)、お父さん、今日は遅くなるって」「達也君、お夕飯食べていってね。そうそう、お家に電話した?」「○○(Aの名前)、バッグはここに置いちゃダメでしょ。部屋に持って行って」「そうだ、お風呂入ってるから」

間髪入れずにたたみかけてくるAの母親の言葉に、達也はどこで返事すればいいんだ?と一度首をかしげて、Aに「電話、借りるね」と立ち上がった。達也が家に電話すると耳の遠い祖母が出たので、普段より大きめの声でAの家にお邪魔していること、夕食をご馳走になることを伝えて電話を切ろうと・・・。と、その時、自分の背後に人の気配を感じ、振り返ると、

「わっ!」

 と
Aの妹が両目、両手を開いて小さくジャンプした。 すかさず、Aが「おい!○○(妹の名前)、いい加減しろよ!ごめん、ごめん。早くゲームやろうぜ」

達也は突然の出来事に心臓の鼓動を感じながら、やっとそこで受話器を置いた。

夕食を終え、再び1時間ほどテレビゲームをやった後、達也は帰ることにした。達也は台所にいたAの母親にお礼を言い、玄関を出るとAと妹が達也の自転車の前に立っている。達也がAに向かって「じゃ、また明日」と言うと、妹がスルスルっと達也とAの間に入ってきた。妹は両手を背中の後ろに回している。その妹の頭をAが合図のようにポンと叩くと、妹は持っていた水玉模様の小さな箱を達也に差し出した。

「これ、あげる!」

達也は高台にあるAの家から続く下り坂を両足を広げて、自転車ランプのヒューンヒューンという音を聞きながら自宅に戻った。玄関を開けると「ただいま」と言っただけで、急ぎ自分の部屋に入っていく。達也はベッドに腰をおろし、ラジカセをオンにする。そしておもむろに上着のポケットから小箱を取り出し、水玉模様の包装紙が破れないように丁寧に開けると、中から白い縁取りに細かく幾何学模様がデザインされたトランプが出てきた。

「そっか、今日は・・・・」

ラジカセからジングルベルのメロディーが流れてきた。


(ちょっとネタばらし)
達也とAは中学卒業後、同じ高校に入学し、その後も二人の友人関係は続いた。しかし、達也はAの妹とは通学途中に時折見かける程度で、挨拶はもちろんのこと会釈することさえなかった。それから数年が経ち、大学三年になっていた達也はK女学院に通うAの妹と、ある年のクリスマスイブに神戸で偶然出合うことになる。果たして、この二人はポートタワーの幻想的な夜景をバックにババ抜きでもしたのでしょうか?!



☆  ☆  ☆


これまで3回にわたってお送りしてきました『友人Aの妹』は、今回をもって一休みすることにします。画像貼り付け中心の日記カテにありながら、毎回1千字を超える落書きに最後までお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。心よりお礼申し上げます。

(さらに追伸として)
達也は男兄弟三人(達也は末っ子)の中で育ったせいか、当時、妹がいるAのことを羨ましく思っていた節があります。それゆえ、達也のAの妹に対する感情は恋愛感情というよりも、兄の妹に対する愛情のようなものだったと思われます。また、物語の設定としては面白くないのですが、実はAの妹も達也に対し特別な感情を抱いていたわけではなく、むしろババ抜きの場面で登場するBの方が恋愛対象だったそうです。それを聞いた時、少し落胆した当時の達也を思い出しながら、この辺で終わりにします。><

次回から、いつものブログに戻ります。(^^)/~~~

※テレビゲーム:今でいうファミコンの前身で、テニスコートを模した緑色の画面上で相手の打った白いボールを打ち返し得点を争うゲーム。単純なゲームだったが、当時としては非常に画期的なものだった。




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