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友人Aの妹 [STORY]

前略 世の中にはよく似た顔の人っていらっしゃいますよね。所謂他人の空似というやつです。私も過去に一度だけ、「この前、コンビニでお前にそっくりな人がいて、つい声をかけそうになったよ」と言われたことがあります。その人が唐沢くん似なら、十分にありえる話だと思いますが…あれ?

冗談はさて置き、昨日電車で移動中に一人の身重の女性が目に入り、「どこかで見たことあるんだよなぁ~」と考えているうちにいつの間にか目的駅に到着。途端にそのこと自体を忘れて一日が経ち、そしてつい今しがた、その妊婦さんによく似た女性のことを思い出しました。
今日はその女性(女の子の頃)について、さわりの部分だけお話します。お時間がございましたら、しばしお付き合いください。草々


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達也は中学時代に同じクラスにいた友人Aの妹のことを思い出していた。兄と二つ違いのその妹は、時折、周りを困惑させるような特異な行動を見せることがあった。かといって、学校の成績が特に悪いわけでもなく、見た目も普通の女の子と少しも変わらなかった。

夏休みに入ったばかりの頃、達也とAが部活を終え、自転車で帰宅中に達也の部屋でトランプゲームをする約束をした。達也は幼稚園の頃から兄弟のようによくつるんでいた一つ年下のBを誘い、Aはその日、親から妹の面倒をみるように言われていたという理由で自分の妹を連れてくることになった。

男兄弟三人の中で育った達也はAの妹が中一の少女だったとはいえ、思春期という成長過程において急速に異性への意識が強まり始めた時期でもあり、また親戚以外で年の近い女の子を自分の部屋に招き入れるのは、この日が初めてだった。自ずと達也の気持ちが昂り始める。達也は帰宅してすぐに汗まみれのユニフォームを脱ぐと瞬く間に着替えを終え、部屋の片付けに取り掛かった。正座して洗濯物を畳んでいた母親に、昂っている自分の気持ちを悟られないように落ち着いた口調でAの妹が来ることを伝え、おやつにカップのアイスクリームを頼んだ。

それから間もなくしてBが現れ、その数分後にAが妹を連れてやってきた。達也が二人を部屋に入るよう促すと、妹は俯いたまま一言も言わず、Aに寄り添うようにして達也の部屋に入っていった。達也の部屋にはベッドの横に赤い格子の電気ヒーター部分が見える炬燵テーブルが置かれ、それぞれ絵柄の違う座布団が4枚敷かれている。4人が座るとABが共通の趣味であるプラモデルの話を始めた。

達也はテーブルの上に、母親の了解を得て用意しておいた父の麻雀用マットを乗せ、プラスチック製の箱からカードを取り出した。ABの話が続いている中、達也は密かに練習していた方法で、シャカシャカシャカという軽快な音を立てながらカードをシャッフルする。それを見ていた妹が「すごーい!」とその日初めて言葉を発した。達也は得意満面でカードを一枚ずつ4人に配り終え、そしてババ抜きが始まった。

この後、どんな展開が待っているんでしょうか?!皆さん、お元気ですか~ (^^)/~~~








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友人Aの妹(二) [STORY]

前回の記事で親愛なるお三方よりコメントをいただき、これは取りも直さず「話をを続けてもよろしい!」という合図であると承知いたしましたので、今日は続編をお送りいたします。もし、先日の結婚式のようにすべってしまった場合は、ニッキーさん、責任を取ってくださいね!冗談です。(^^;

(前回のあらすじ)
夏休みが始まって間もなく、中学三年の達也は部活の帰りに同じクラスの友人Aとトランプゲームの約束をする。そのメンバーの中にAの妹がいた。この妹は見た目はごく普通の女の子ではあったが、時折、周りをびっくりさせるような特異な行動をとることがあった。その女の子の前で達也は密かに練習していた見事なカードシャッフルを披露し、達也の一つ年下で幼馴染Bを加えた4人で、ババ抜きが始まった。


友人Aの妹(一)はこちら



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(二)ジョーカー
テーブルを囲み、
達也の右隣にAの妹、正面がB、左にAが座っている。最初のカードの配布時点でジョーカーは達也のカードの中にあった。達也はポーカーフェイスを装いゲームが進んでいく。

中盤に差し掛かったところで達也のカードが5枚、ジョーカーはまだ達也の手の内にあった。次は達也のカードを妹が引く番である。達也はこれまで敢えてAの妹にジョーカーを引かせないように配慮してきたが、引き続きそれを意図して、カードが5枚になったところで、5枚のカードの真ん中にジョーカーを入れ、その1枚だけが高く飛び出す形(凸)で妹に向き合った。

それを見た妹は眉をひそめ、首をかしげる。なかなか引こうとしない。しびれを切らした兄のAが「早くしろよ!」と促す。妹は一度大きく深呼吸し、右手を伸ばしてカードを引いた。その瞬間、顔をしかめる達也をよそに、妹は左手に持っていた手持ちのカードをテーブルに置き、引いた1枚を生まれて間もないヒヨコを抱くようにして、両手に包み込んだ。そして両手を小さく開いて、親指の隙間から中を覗き込む。

「あっ!」

次の瞬間、引いたカードを自分の額にパチン!と打ち付けると、ジョーカーごとテーブルに額をぶつけて固まってしまった。

目を丸くした達也はテーブルと妹の顔の隙間を覗き込むようにして、「大丈夫?」と声を掛ける。しかし妹はピクリともしない。達也は助けを求めるように視線をAに向けると、Aはその展開を最初から予測していたかのように落ち着き払った表情で妹の方を指差す。達也が振り向くと妹はゆっくり顔を上げ、目から大粒の涙を流した。

すかさず、Aが「泣くなよ~」と言いながら天井を見上げる。その声に反応するように妹はいきなりスカートをまくり上げ、そのスカートで涙を拭いた。次の瞬間、達也は「俺は見ていないよ!」と言わんばかりに、自分の体を妹とは逆方向にねじるように立ち上がり、タンスからハンカチを取り出し妹の目の前に置いた。妹は達也にこくりと頭を下げ、涙は止まった。

妹は次のBに向かってカードをかざす。すると先程の達也と同じようにジョーカーだけを高くしている。Bは一瞬不思議そうな表情を見せたが、妹の瞳にジョーカーが映っているかのように難なく別のカードを引き、「よし!」と言うと、揃った2枚のカードをテーブル中央に放り投げた。この時点でBのカードは2枚になり、次にAが引いて、Bは1枚になった。

それから二周回ってAも1枚になり、達也のカードは2枚。3枚の妹は、兄からの「上、下、真ん中でやれ!」という助言を聞こうともせず、3枚のカードが均等になるように両手で扇の形にし、さらに3枚のカードの高さが同じになるように繰り返し手のひらで撫でた。Aは「知らねぇぞ」と言いながらも、心配そうに妹を見つめている。達也は達也でBがジョーカーを引いてくれるよう祈った。しかしBが引いたカードはジョーカーではなかった。これによりBの1位が確定し、続いてAもすんなり最後の数字を引き当て、最後に達也と妹が残った。

妹が差し出した2枚の内、1枚だけが極端に高くなっている。達也は、我に透視能力を与え給え!と祈りつつ、高い方のカードを選んだ。しかしその祈りはついに叶わなかった。

残されたジョーカーを見つめる妹の目から、先程よりもさらに大粒の涙がポロポロと零れた。(つづくの?)








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友人Aの妹(三) [STORY]

前回に続き『友人Aの妹』をお送りします。これまでの内容は次の二話をご覧ください。

(一)ババ抜き
 
(二)ジョーカー

4人で始めたババ抜きは、妹の負けに終わる。妹は最後に残ったジョーカーを握り締めながら大粒の涙を流し、声を殺して泣いていた。

(三)クリスマスプレゼント
達也はその場の気まずい雰囲気を察して、「次、七並べやらない?!」とわざと明るく言うと、Aが「ごめん、こいつがいると面白くなくなるから帰るわ」と立ち上がろうとした。丁度その時、達也の母親がアイスクリームをお盆に載せて部屋に入ってきた。母親は妹のただならぬ様子に気付き、俯いたままの妹の顔を覗き込もうとすると、Aがそれを制するように「おばさん、大丈夫です」と言って、自分の手を妹の頭の上に軽く置いた。母親は仕方ないなといった表情で肩をすくめ、アイスクリームをお盆ごとテーブルに置くと、何か言いたそうな視線を達也に送りながら部屋を出て行った。

ドアが閉まって、Bが美味そう!と言いながら一つのアイスを手にする。しかしAは取ろうとしない。すると達也はカップの上にスプーンを乗せ、Aにバニラを渡し、妹には「これでいい?」と聞きながらイチゴ味のアイスを妹の目の前に置いた。妹はなおもヒッヒッと息を吸い込むように泣きながらアイスを手にする。4人が食べ始めると暫く沈黙が続いた。達也がまた気を利かせて、次の言葉を探そうとするが適当な言葉が見つからない。そして、達也のアイスがカップの丸い淵から順に溶けだし、中の塊がカップの中をクルクル回り始めた頃・・・

その沈黙を破るように突然、妹がクスクス笑い始めた。と、同時に他の三人がスプーンを持ったまま顔を見合わせる。その内、妹がゴホッ、ゴホッと喉を詰まらせ、大粒の涙でテカった妹の顔が見る見るうちに
真っ赤に染まった。三人は一斉に声を出して笑った。



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(フリー画像から拝借、某図書館前)

やがて季節が移り、達也の中学生活も最後の三学期だけを残すこととなった、その年のクリスマスイブの日、達也とAは図書館にいた。二人は部活がなくなって以来、同じ高校を目指し、ほぼ毎日ここで受験勉強を続けている。午後5時10分前に閉館のチャイムが鳴った。

「達也、ちょっと待ってて、家に電話してくるから」とAは達也にバッグを預け、図書館1階の公衆電話に向かう。暫くして達也が2階から二つのバッグを両肩に載せ階段を下りてくると、A

「お母さんが、テレビゲーム(※)やってもいいって!」

2人が図書館を出ると外はすでに暗くなり、公園の樹が風に黒く揺れていた。

「こんばんは。お邪魔します」

「あっ、達也君、いらっしゃい」「〇〇(Aの名前)、お父さん、今日は遅くなるって」「達也君、お夕飯食べていってね。そうそう、お家に電話した?」「○○(Aの名前)、バッグはここに置いちゃダメでしょ。部屋に持って行って」「そうだ、お風呂入ってるから」

間髪入れずにたたみかけてくるAの母親の言葉に、達也はどこで返事すればいいんだ?と一度首をかしげて、Aに「電話、借りるね」と立ち上がった。達也が家に電話すると耳の遠い祖母が出たので、普段より大きめの声でAの家にお邪魔していること、夕食をご馳走になることを伝えて電話を切ろうと・・・。と、その時、自分の背後に人の気配を感じ、振り返ると、

「わっ!」

 と
Aの妹が両目、両手を開いて小さくジャンプした。 すかさず、Aが「おい!○○(妹の名前)、いい加減しろよ!ごめん、ごめん。早くゲームやろうぜ」

達也は突然の出来事に心臓の鼓動を感じながら、やっとそこで受話器を置いた。

夕食を終え、再び1時間ほどテレビゲームをやった後、達也は帰ることにした。達也は台所にいたAの母親にお礼を言い、玄関を出るとAと妹が達也の自転車の前に立っている。達也がAに向かって「じゃ、また明日」と言うと、妹がスルスルっと達也とAの間に入ってきた。妹は両手を背中の後ろに回している。その妹の頭をAが合図のようにポンと叩くと、妹は持っていた水玉模様の小さな箱を達也に差し出した。

「これ、あげる!」

達也は高台にあるAの家から続く下り坂を両足を広げて、自転車ランプのヒューンヒューンという音を聞きながら自宅に戻った。玄関を開けると「ただいま」と言っただけで、急ぎ自分の部屋に入っていく。達也はベッドに腰をおろし、ラジカセをオンにする。そしておもむろに上着のポケットから小箱を取り出し、水玉模様の包装紙が破れないように丁寧に開けると、中から白い縁取りに細かく幾何学模様がデザインされたトランプが出てきた。

「そっか、今日は・・・・」

ラジカセからジングルベルのメロディーが流れてきた。


(ちょっとネタばらし)
達也とAは中学卒業後、同じ高校に入学し、その後も二人の友人関係は続いた。しかし、達也はAの妹とは通学途中に時折見かける程度で、挨拶はもちろんのこと会釈することさえなかった。それから数年が経ち、大学三年になっていた達也はK女学院に通うAの妹と、ある年のクリスマスイブに神戸で偶然出合うことになる。果たして、この二人はポートタワーの幻想的な夜景をバックにババ抜きでもしたのでしょうか?!


☆  ☆  ☆

これまで3回にわたってお送りしてきました『友人Aの妹』は、今回をもって一休みすることにします。画像貼り付け中心の日記カテにありながら、毎回1千字を超える落書きに最後までお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。心よりお礼申し上げます。

(さらに追伸として)
達也は男兄弟三人(達也は末っ子)の中で育ったせいか、当時、妹がいるAのことを羨ましく思っていた節があります。それゆえ、達也のAの妹に対する感情は恋愛感情というよりも、兄の妹に対する愛情のようなものだったと思われます。また、物語の設定としては面白くないのですが、実はAの妹も達也に対し特別な感情を抱いていたわけではなく、むしろババ抜きの場面で登場するBの方が恋愛対象だったそうです。それを聞いた時、少し落胆した当時の達也を思い出しながら、この辺で終わりにします。><

次回から、いつものブログに戻ります。(^^)/~~~

※テレビゲーム:今でいうファミコンの前身で、テニスコートを模した緑色の画面上で相手の打った白いボールを打ち返し得点を争うゲーム。単純なゲームだったが、当時としては非常に画期的なものだった。









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あじさいの絵 [STORY]

土曜日の散歩中に立ち寄った図書館前のあじさいです。日当たりが良くない場所のせいでしょうか、まだ蕾でした。さて今日の記事は、単なる私のメモ書きなので、遠慮なくすっ飛ばしてください!

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From
:〇〇 〇〇
Subject
:お礼
Date
1993/5/28(金)17:03
To:T.komatsu@×-××.ne.jp
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こんにちは。〇〇です。
この前は本当にびっくりしました。まさか東京にいるはずの達也さんとお会いできるとは。

そういえば、何年か前も同じ神戸で偶然お会いしましたよね。その時は私も達也さんもまだ学生でした。

実は、その時も今回も私は達也さんとお話しながら同じことを考えてしまいました。それは、達也さんはどうしてあの時のババ抜きの話をされないのだろうかと。

もしもそれが私の恥ずかしい思い出を蘇らせたくないというお心遣いだったとしたら、嬉しい反面、「私はそんなにデリケートではないですよ」と言いたかった。いや、やっぱりありがとうございます、かな?

前置きが長くなりましたが、このメールは2か月前にご馳走になったイチゴパフェと出産前祝いにと頂いた(子供用)リュックのお礼、そしてご報告です。

ちょうど一週間前に無事出産を終えることができました。お話したように女の子です。顔は母に言わせると、夫似だそうです。

私は今、夫の仕事の関係もあって、〇路の実家に帰っています。そうそう、昨日神〇バスの停留所で達也さんのお母様を偶然お見かけしたんですよ。でも、私には気付かず通り過ぎていかれて、私も子供を抱えていたので追いかけていくこともできず、何も挨拶が出来ませんでした。今度、達也さんがお母様とお話されることがあったら、私がお詫びをしていたとお伝えください。というか、なぜ私たちがメールのやり取りをしているのか、説明するのが難しいかもしれませんね。

これも説明するのが難しんですけど、達也さんとの偶然の出会いが、単なる偶然じゃなく、あのババ抜きの時からそういうストーリーが出来上がっていたんじゃないかと・・・。最初の偶然だった大学生の時はお互いに余分な時間があったはずなのに、喫茶店に20分もいられずに私は帰ってしまいました。あの時、なんで自分がそんな行動をとってしまったのか、それなら最初から喫茶店にヒョコヒョコついて行かなければよかったのにと、その後ずーと考えていたんです。でも、結局その疑問は時間とともに消えてしまいました。それなのに、あの喫茶店に飾ってあった薄ピンク色のあじさいの絵だけは時々思い出すことがあるんです。

ごめんなさい。いつもの私の悪い癖で、取り留めのない内容になってしまいました。ただ、 今日、このお礼とご報告のメールが出来て本当に良かったです。めちゃ、すっきりしました。

私の兄もお酒が好きな方ですが、聞くところによると達也さんは兄以上だそうですね。くれぐれもお酒もタバコもほどほどにして、フィアンセを泣かせないようにしてください!余計なお節介?

それでは、お元気で。さようなら。

(追伸)
もし、『二度あることは三度ある』でお会いすることがあったら、その時はぜひババ抜きの話をしてください。

☆  ☆  ☆

この記事は、先回の「友人Aの妹」の続編として下書きしていたものです。最初は削除しようと思ったのですが、本日これといったネタがなかったのでアップさせていただきました。なお、初回記事の冒頭で触れた身重の女性を見かけていなかったら、この一連の落書きはなかったように思います。人間の記憶とは不思議なものです。おわり








タグ:お母様 続編
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この秋注目のドラマ 「踏みにじられたフラッグ」 [STORY]

私は今、あるドラマに夢中だ。

主人公の二人は幼馴染。仮に一人をAとし、もう一人をBとする。二人は家柄が違うものの同じ地域に住んでいる。Aは小さい頃から近所に住むガキ大将Cに目を付けられ、執拗に虐められてきた。AがCに歯向かうことはまずない。CはAにとって強すぎるからである。それはAの生来の性格でもあるのだが、どんどん卑屈になり、また自意識過剰な性格がいっそう彼を嘘つきにさせる。

一方、Bの住む家はAの家と比較して地理的にガキ大将の家から遠くにあり、Bとガキ大将との接点はそれほど多くなかった。また、Bは生まれつき聡明で、性格が優しく、しかも喧嘩が強い。自然ガキ大将だけでなく、遠く離れた場所に住む強者達からも一目置かれる存在になっていた。こうなると、AのBに対する嫉妬心はさらに強くなり、それでいてAはプライドだけは異常に高いことから傲慢な振る舞いも目立つようになっていった。

ある日、AとBは映画に行く約束をして、公園で待ち合わせをすることにした。約束の5分前にBは公園に着いたがAの姿はない。昨夜から降り続く雨は台風の接近と共に強くなる。30分経ってもAが現れないので、Bはこの天候の影響でAに何かあったのはないかと心配になり、Aの携帯に電話した。繋がらない。Bはそれからほとんど10分置きに電話してみたが、留守電にさえ繋がらなかった。2時間が経ち、Bはずぶ濡れになりながらそれ以上待つことを諦めた。


(フリー画像から)

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翌朝、台風一過の雲一つない青空が広がり、灼熱の太陽が照りつける中、Bが公園を歩いているとAがベンチでスマホを片手に誰かと話していた。BAの真正面に立った。しかしABを一瞥しただけで、組んでいた右足をBに向かって高く振り上げ、今度は左足を上に組み直し、同時に身体を横向きにした。

時折笑いながら電話は続いている。Bは「昨日、どうして来なかったんだ」と目を合わそうとしないAに向かって言った。Aは「面倒くさいのが来たので、電話切るね!」と言うなり、ベンチから立ち上がり歩き出す。二、三歩離れたところで、Bが「待てよ!」と後ろ向きのAに向かって短く言い放つと、Aは振り向きざまに、ポケットから白地に赤のストライプの入ったハンカチを取り出し、自分の目の前にかざす。ハンカチは振り子のように風に揺れ、間もなくAの足元に落ちた。次の瞬間、Aはハンカチを踏みつける。足首をねじりながら、何度も何度も踏みつける。ハンカチは乾ききっていない公園の土にまみれ、ゴボウのようになった。それは一年前、今日と同じような炎天下の日にハンカチを忘れたAのためにBが貸してあげたものだった。

☆ ☆ ☆

夏休みが終わり、二学期の初日に学級委員選挙が行われた。この学校の選挙は立候補者を募るのではなく、推薦により3名までを候補者とし、投票によって選出されることになっている。担任が推薦者の挙手を求めると、女子仲良しグループの仕切り役であるD子がE美を、続いてAがクラスNo.1イケメンであるFを、それぞれ推挙した。

AFの名を挙げると、教室内がにわかにざわつき始めた。なぜなら、この夏休み中にFにまつわる数々の悪い噂が学内に広まっていたからである。それはFが気の弱い年下の女子を集めてポケモンカードをカツアゲしていたこと、夏休みの読書感想文を三つ年上の姉に書かせていたこと、料金を払わずに市民プールを利用していたこと等々、次から次へと疑惑が浮上していた。彼は別名「たまねぎ男」と呼ばれるようになっていた。

ということで、このドラマは驚きの新キャラクター登場でますます面白くなってきました。

今後の展開が楽しみですね! おしまい (^^)/~~~
 






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春の模様 [STORY]

 

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台風

 
わたしは公園のベンチに座り、缶ビールを開け、一口飲んだ。目の前の小学校から出てきた一組の親子連れが明るい声で話しながら自転車に乗ろうとしている。間もなくして、クリーム色の作業着を着た男性が現れ、ガッシャンと音を立て門が閉まった。暗闇に浮かび上がった白い校舎の上に、輪郭がぼやけた月が淡く黄色く光っていた。

 
わたしは56。来年の2月で57歳になるサラリーマンである。ここ半年ほど、会社帰りにこの公園で缶ビールを一本飲むのが習慣になった。ビールが残り少なくなったところで、バッグからスマホを取り出し画面を立ち上げる。これも一連の動作になっている。

「専務が一番よくお分かりだと思うんですが、我が社の現状の業績では役員を含め人件費をさらにカットせざるを得ません。来週で構いませんので、率直なご意見をお聞かせください」「あっ、それと……」

わたしは、急ぎの用事がありますんでと告げて早足で社長室を出た。またこの態度で一悶着あるかもしれない。そんなことより、これ以上給料が減ってしまったらカミさんはどういう反応をしめすのだろうか。スマホが自分の顔を照らしている。
天気予報のアイコンをタッチすると、今にも吸い込まれてしまいそうな白い渦巻きが映りだされた。わたしはふと何年ぶりかに煙草が吸いたくなった。

☆ ☆

皆さま、台風にはくれぐれもご注意ください! (^^)/~~~







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2019-10-21の [STORY]

 
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 本八幡行きの快速電車を一本見送り、私はいつもと同じ始発電車に乗った。乗換駅である
新宿までは5、6分なので席が空いていても座ることはまずない。優先席横のドアにもたれてスマホを立ち上げると、LINEのアイコンにメッセージの受信を知らせる赤い丸と数字の1が表示されていた。ここでLINEを開けてしまうと、すぐに返事をすべきかどうかを迷うことになる。また相手にもよるが、既読にしてしまうと返事をするまでずっとそれが気になってしまう。私はそのままスマホをバックにしまい、替わりに文庫本を取り出した。

 
 午前830分、会社に到着。電車に遅延がない限り、20年近くほぼ同じ時間に1階エレベーターの前に立つ。エレベーターを待っている間に同じ会社の人間に会ったときは、おはようございますと挨拶をするが、朝のエレベーターは混んでいることが多いので、中で目があった場合は口だけ動かして軽く会釈をする。

 席についてノートパソコンの電源を入れた。4人の社員が皆一様に袖の短いスーツ姿で挨拶をしながら、私の前を通り過ぎていった。私は4人分まとめておはようと語尾を伸ばして言った。その時目の前のパソコンがWindowsの更新を始めた。私はようやくそこでバッグからスマホを取り出し、LINEの通知を開ける。それは飲み友達からのものだった。朝一番から面倒な仕事の話だけは無いようにと願っていただけに、ひとまず安心した。

『明日、空いてる? 散歩の邪魔だったら、日曜日でもいい。よろしく!』

 彼が最近不倫相手と別れたという話を、つい先日新宿のルミネ前でばったり会った別の飲み仲間から聞いた。急に週末が暇にでもなったのだろうか。彼は40代前半で中堅商社を退職し、15年前に退職金を元手に貿易会社を始めた。彼のサラリーマン時代、私はしばしば彼から組織の窮屈さについて愚痴を聞かされていた。何事にもパワフルな彼は、好きなように立ちまわりたいという願望を叶えるために、敢えて従業員を二人だけにして、ワンマン社長を貫いている。しょっちゅう出張を入れることができるのも彼の作戦通り。もちろんそれは奥さんへの便利な口実にもなっていた。設立当初はずいぶん資金繰りに苦しんでいたようだが、中国経済の急成長が追い風となり、今では仲間内で一番羽振りがよい。設立2年目に私がカミさんに内緒で出資した私募債100万円も一割の利息が付いて返ってきた。

 私は少々その返事が遅くなっても彼は怒るような人間ではないことを知っていたので、会社が終わるまで既読にしたまま放っておいた。会社が終わり、帰り道に立ち寄った公園のベンチに座り、缶ビールを飲みながらようやくそこで返信した。

『明日の散歩は中止する。何時にどこへ行けばいい?』
 
 
帰宅してリビングで上着を着たままスマホを確認すると、赤い丸はなく、私が返信したメッセージに既読表示はなかった。腹が立つところまではいかないものの、何だ、まだ見てないのか、と心の中で呟いた。ジャージに着替え、ソファに腰を下ろし、ローテーブルに置いてあった夕刊を手にする。台所からカミさんがエプロンで手を拭きながら出てきた。ただいま、お帰りの次の会話はだいたいここで始まる。

「お父さんからもちょっとは言ってよね。ゲームばっかりして、全然受験勉強してないのよ」

話の内容はその時々によって異なるが、今年の4月以降は息子の話題が多い。正直なところ、私は息子の進路についてはあまり気にしていない。自分自身の受験経験から、本人の意識が全てであることを知っているからだ。また、ここで本音を言うほど私は鈍感ではない。


「そっか、じゃあ、日曜日にメシでも誘って、ちゃんと言っとくよ」


「どうせ、外で飲みたいだけなんでしょ。あの子には絶対飲まさないでね」


意外にも、その言いようは切実さが感じられなかった。おそらく彼女もそのへんの機微がわかっているのだろう。お風呂を済ませてリビングに戻ると、息子が中腰でダイニングテーブルに覆いかぶさるようにして、鍋からキャベツと豚バラを真剣な表情で自分の器によそっていた。


「なんだ、ご飯まだだったの?」


「おう!」


私は頭にバスタオルをのせたまま、テーブルに置いていたスマホを手に取った。画面を立ち上げると、LINEに赤い丸が付いていた。今ごろになって、なぜ彼は私だけに声を掛けたのだろうかという疑問が浮かぶ。人差し指でアイコンをタッチした。


『11時に百草園の駅前で待つ。そば、奢る。(*≧▽≦)bb』


意味不明な絵文字に溜め息をついたところで、テレビから大きな歓声が聞こえてきた。画面を見ると、そこには赤白しま模様のジャージを着たラグビーファンたちが映り出されていた。








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